第103回 王最版深夜の一本勝負
お題「ダンス」
「Shall We Dance?」
王馬くんが僕に向かって、右手を差し出してきた。
男の前にまるで騎士のようにひざまずく白い姿は、格好の注目の的だ。ざわめく周りの視線が痛い。大きな電子音も頭に響く。
僕は、差し出されていた手を、勢いよく撥ね退けると、聞き返されないようにはっきりと答えを口に出した。
「い、や、だ」
「何で!?」
「何で、って、オッケーを貰えると思っていたこと自体が驚きだよ。踊りたければ、一人でプレイすればいいじゃないか」
目の前にある機械を指差す。
ダンシング・ザ・エボリューション。体感型のダンスゲームだ。設置するには、それなりに場所がいるため、近場だとここのゲーセンぐらいしか置いていない。
ゲームのルール自体はいたって単純。画面で踊るキャラクターと同じように踊ればいいだけだ。問題は、その踊りが衆人環視に晒されるということだろう。
「一人でやったって意味ないじゃん。オレは、最原ちゃんが女性曲を恥ずかしそうに踊るのが見たいだけなんだからさ!」
「踊らないから」
お互い相手を睨みつける。しばらくして、王馬くんが僕から視線をはずした。
「いいもん、最原ちゃんがいなくたってプレイしてやる。オレがかっこよくて女子にキャーキャー言われるところを指をくわえて見てるがいい」
王馬くんはよく分からない捨てセリフを吐くと、お金を投入してプレイを開始した。何だか難しそうな曲を選択していく。
(よく動けるな)
画面の中のキャラと同じように身軽に動く姿は、素直に感心できた。ふと、周りを見渡してみる。遠すぎない位置に女子高生たちが点々と存在していた。
(王馬くんを見てるのかな)
別にキャーキャーは言われてないけど、……何だかもやもやする。
「次なに踊るのかな? あれ? クラシック?」
「あの曲って二人用じゃなかったっけ?」
「だよねー。だって、あれって」
「最原ちゃん!」
「え?」
いきなり手を引っ張られた。余所見をしていたせいで、王馬くんの突然の行動に対処できない。気づけば、僕はゲームの台の中央にいた。
『レディー、ゴー!』
(な、何?)
混乱している間に、王馬くんの左手は僕の腰に、右手は僕の左手を握っていた。この格好は、まるで社交ダンスみたいじゃないか。
「最原ちゃんはオレに身をゆだねてるだけでいいからね」
「なに、言って、うわっ」
王馬くんにリードされて、足が勝手に動く。これは社交ダンスみたい、じゃなく、紛れもなく社交ダンスだ。しかも僕の方が女性パート。なんという羞恥プレイ。
「きゃー!」
周りにいた女子高生たちが、なぜかこちらに向かってカメラを向けている。
肖像権の侵害だ。勘弁して欲しい。
『パーフェクト!』
「にしし。ノーミスだって! 最高のダンスだったね、最原ちゃん」
「最高かなんて、分からないだろう」
王馬くんから視線を外す。ダンスを終えて嬉しそうに笑う彼を見て、ほんの少しだけ格好良く見えただなんて、どうかしてる。
「じゃあ、次はセクシーかキュートかのヤツね。最原ちゃん、盛大に恥ずかしがってね!」
「え? 待って、僕は戻るから、離して。離せって言ってるだろ!!」
僕の反抗の意思も虚しく、次の曲が鳴り始めた。
(作成日:2019.01.20)