第101回 王最版深夜の一本勝負
お題「ホラーゲーム」
「おはよう、最原ちゃん。今日のデートはね、じゃじゃーん、長年の恋人とのマンネリ解消のためにホラーゲームを持ってきてみました!」
「……長年も何も、まだ出会って6日目くらいだよね?」
恋愛バラエティ『だんがん紅鮭団』。僕と王馬くんは、この番組で初めて出会い、今は6日目だった。お互い親密度が一番高いであろうと分かる程度には、僕は王馬くんと過ごしている。
(……ホラーゲームなんて、どこにあったんだろう?)
王馬くんは、身体の前でゲームのパッケージを掲げていた。僕でも知っている有名なホラーゲームだ。
確か、主人公は見覚えのない自分からの手紙に呼び出され一人丘の上に行くが、そこでゾンビの群れに襲われるという話、だった気がする。
「じゃあ、さっそくAVルームに行こうか!」
「え? 待って、僕、まだ朝食食べてな、い。ちょ、ちょっと引っ張らないで! ちゃんとついてくから!」
「ウェアアアンヴヤェャァァァ 、最原ちゃん、こわいよー」
(うるさい)
画面の中の衝撃シーンよりも、隣から大音量で響く鳴き声に意識が持っていかれる。それに加えて身体を寄せてくるので、違う意味でも心が休まらない。
その一瞬に隙ができたのか、僕の操作するキャラクターがゾンビに噛まれた。画面に大きく「You Dead」の文字が表示される。
「あ」
「ちょっと、最原ちゃん。死ぬ頻度短い」
「ご、ごめん」
さっきまで盛大に鳴いていたにも関わらず、王馬くんはノーミスでゾンビを倒していく。こんなに的確にゾンビを撃っているのに、どこが怖いというのだろうか。
いつまでも参戦しないと、また何か言われるかもしれない。コンティニューしようと動いた瞬間に、画面が白く光った。
「あー」
「もう、最原ちゃんが寝ちゃった間にゲーム終わっちゃったじゃん。まさかゲームの中でも寝坊助なんて思わなかったよ!」
「ごめん」
「もういいよ。それよりも、最原ちゃん、どうだった? このゲーム、怖かった?」
「いや、あんまり怖くはなかったな」
(主に王馬くんのせいで)
横目で、王馬くんを伺う。下から覗き込んでくる目が思いのほか近くて、心臓が嫌な音を立てた。
「えー、怖くなかったの? 吊り橋効果を狙ったオレの作戦の意味ないじゃん。あ、じゃあさ、別の意味でホラーなものでも体験する?」
「作戦、って。えっと、別の意味? 映画でも見るの?」
周りを見渡す。AVルームには古今東西の映画やドラマが並んでいる。メジャーなものからマイナーなものまで、様々なホラー映画があるはずだ。
棚からDVDを物色しようと腰を上げた。しかし、気がつけば僕はソファーの上に押し倒されていた。
「え?」
「最原ちゃん」
王馬くんの手が、制服の下に伸びてくる。お腹に直接触れられて、背筋がぞくりと震えた。
「未知の体験って、恐怖を覚えるっていうよね? 誰も助けに来ない部屋。脱がされていく服。さて、探偵さんはこの後にくるホラーな展開を推理できるかな?」
「…………そこまでしておいて何も起こらなかった方が、僕にとってのホラー展開かな」
僕は、ゆっくりと王馬くんの首に腕を回した。
(作成日:2019.01.06)