南京錠プレイ準備号
金属が擦りあうような音が聞こえて目を開けた。薄暗い部屋の中、白い影が僕の身体を覆う。
「……王馬くん?」
「あれ? 最原ちゃん、起きちゃった? そうだよ、最原ちゃんの恋人の王馬小吉だよ!」
「いつから、恋人になったんだよ」
王馬くんを押しのけようと身体を起こそうとして、ふと、首にかかるわずかな重量に気づいた。
首元を触ると冷たい金属の感触。胸元を見下ろすと、チェーンに引っかかった南京錠が見えた。
「え?」
南京錠を持ち上げる。表面には『おうまこきちのもの』と書かれていた。
まさかと思ってチェーンを指先でなぞる。予想通り、僕の首を回った金属に継ぎ目はなかった。
「……なにしてるの?」
「なに、って、マーキング?」
王馬くんは、かわいらしく首をかしげてみせる。ただ、僕にとっては、その仕草は憎たらしさしか覚えない。
「オレさ、明日からちょーっとばかし、長期で日本離れないといけなくなっちゃったんだよね。最原ちゃんに悪い虫がつかないようにおまじない。昔なら、貞操帯って言ったっけ?」
「殴るね」
告げたと同時に、僕の右手が炸裂した。僕の張り手は、軌道を読まれていたのか軽く避けられた。そのまま王馬くんは窓辺に足をかける。
「にしし、最原ちゃんは、その南京錠嫌いなの? それなら追いかけきてよ、探偵さん。オレを捕まえることができたら、その南京錠をはずしてあげるよ!」
「あ、王馬くん!」
王馬くんが、窓から外へ飛び出す。後を追って、窓から身を乗り出すとパラシュートで降りていく姿が見えた。
「……逃げられた」
頭を抱えて、溜め息を吐く。身体を動かすと、首から下がった錠がチャリ、と鳴った。
(作成日:2019.02.17)